辟易のエレベーター
百瀬朝子

(シタ ヘ マイリマス)
機械の声が言った
まちがえた
私は上に行きたいのに
すくんだ
無情なドアーは閉じられる

上下する箱の中
人が乗っては降りてゆく
重力に逆らったスピードで
大地が歪む
みんなどこへ行きたいのだろう
(ウエ ヘ マイリマス)

私は六階で降りたいのに
ボタンの前を占拠したおばんがいる
手を伸ばしては阻まれる
宙に浮いた右手の行方

私はスナイパーになって
ビルの屋上から狙撃する
つもりになって
『6』のボタンを狙ってる
(ドア ガ シマリマッ…)
って飛び乗ってきた娘が挟まれた
「あら、ごめんなさい、みえなかったの」
そう言うおばんこそスナイパー
指一本で娘を撃退したんだ

(ウエ ヘ マイリマス)
(ウエ ヘ マイリマス)
(ウエ ヘ マイリマス)
(ウエ ヘ マイリマス)
(ウエ ヘ マイリマス)
(ウエ ヘ マイリマス)

退屈な上昇
大地が遠くなる
だけど
こんなもんじゃ空へは近づけない

幼い夢は雲に乗っていってしまった
追いかけた私の足はもつれて
見失ってしまった
もう、帰れない

降る雨
上昇する私
こんな箱ではどこへも行けない
ぐらりと停止する思考

(ロッカイ デス)


自由詩 辟易のエレベーター Copyright 百瀬朝子 2009-11-05 18:31:54
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