冬の船出
within

小舟を浮かべて 新しい世界を求めて
僕は旅に出ようと思います ひとりで

生きていく才能のない僕は
誰かが傍らにいてくれないと
ウサギのように震えて死んでしまいそうです

それでもひとりで旅に出たいのです
強くなるためじゃありません
出会いを求めているわけじゃありません
やさしさに触れたいわけじゃありません
母が泣くからではありません
父が妙にやさしいからではありません

風が冷たくなったからです
もう夏の残り香のような秋も終わり
寒気が南に下りてきました

見たこともないものが見える目が手に入ったら
写真を撮って宙に向かって手紙を送りますから
両手を拡げて受け取ってください

狂っている心というのは薬では隠せないものなのです
あなたと比べると自分があまりにもみじめだから
苦しい 呼吸をするのも苦しくて
あなたが逃げていくのがわかるから
僕はひとりでいくのです
あなたとは逆向きの流れを選んで

僕は子宮から出るべきではなかった
温かい羊水の中でくさってしまえばよかった
そんなことを言うべきではないのでしょう
だからこっそりと書き留めておくことにします
口に出さなければ言葉も命を持つことはありません
僕の腹の中に収めておきます

そろそろ風の具合がよくなってきました
今日は風がおだやかです
たくさん着込まなくては冷気が素肌に染み入りますが
今日は悪い日ではないような気がします

さあ、出発です
いってきます


自由詩 冬の船出 Copyright within 2009-11-05 15:45:58
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