或る女
田園

まことしやかに伝わる嘘を
信じてただただ突き進んでた
貴方の背中を私は見てた
貴方の涙は見えなかったわ

私は貴方を失って
ぽつねんと一人立ちすくんでた
叫んでは獣に気づかれる
私は取って喰われてしまう

私は一人でナイフを持った
民衆が殺しを始めたのだった
生きたいのか死にたいのか
理解はしていなかった
本能のみでナイフを持った

星が降る降る天が降る
天涯孤独の爺さんが
お前のさだめを見極めろ
見つめて消えるその露を
ごくりと飲んで生きるのだ

呑めや唄えの宴会で
久方ぶりの休憩の
帰りに路傍にうずくまる
あの時の貴方はいまいづこ

吐き気堪えて
穴を掘る
私の勤め
穴を掘る

優しい母を埋めるため
愚かな私を埋めるため

着の身着のままゆうらりと
腹が減っては物をこい
愛はどこかに落ちている
戯言信じて放浪す

私の自我は崩壊し
ただの小さな器と成る
貴方の背中を追っていた
流すはずの涙をつらり
貯めて一気に飲み干すわ


自由詩 或る女 Copyright 田園 2009-11-05 02:38:50
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