「うつわの水」
月乃助
光のあふれる
みなもは、しじまの
はぐれた啄木鳥の子どもが、背を黒くし ―●―
オークの幹をつついています
水音にささやかれる樹の間は、
あたたかな池畔のひろがり
水面に影をおとす柳の樹の、
その隙間に つまらなそうな陽の輝きがのぞき
それもまた水鳥たちに さえぎられるなら
池水は、その自由を池畔におもね、
ひろがっているのです
アーチになった石橋も ―【 ―
何千もの人をささえる頑固な礎石さえ しかるでもなく
まといつく枯れ葉を 今はなすがままにさせています
▼秋、だから 老いた
かしいだマロニエの樹さえ、あまたな葉を水になげては、
それを染め上げる努力をおこたらない
池の水は、すべてを確かめながらも ただ黙ったまま…
水が定めにその形をかえようと、
器は、それを望んでいるのですか ―□―
何かをささえる、それに嫌気をさしたなら
それ自体をなくしてしまう考慮がいるのでは、
【 器が存在するのがイケナイのかもしれない 】
それがなくなった時には、
束縛をなくした自由へつづく解放がやってくるはず
ほんの少し心に宿って形をなす
器をなくそうと、人は苦労をしてきたのではないのです
それよりも、強固な器を、他人と共有できるような
そんなものを作り出そうと夢を追い続けきた
そのために、幾千億もの鋳型が作られ、形をなし
それを満たすことに
どれほどの力が支払われたのか、
それよりも、
器をなくしたときから、そこへいれるものを
たとえそれが共有するものだろうと、△【〓】▼
もう心配しなくてすむはず
もうなにもいらないと、ほっと 胸をなでおろしてよいのです
そんなことは できないと、あきらめるよりも
それができると、信じながら、
水が支える 啄木鳥に水鳥の
波紋に舞う枯れ葉に、木々の影
映す空さえも もう水の仕事ではなくなります
【 池の水の寡黙には、そんなイミがあった 】
それを理解している水鳥だけは、
ものおとに飛び立つと、
石橋のアーチの下を、水にふれずに飛び去っていきます
池の 限られた自由を、ヒレのついた足に
いちどは蹴りながら 人造の橋を
人のやることなどと、嘲笑い
渡り鳥のふりをして、また、ここへと
もどってくるくせに、