夜へ 夜へ
木立 悟







途切れた道のその先
坂を上りきった場所の空
曲がり角をすぎてゆく陽
曇と 曇ではないものの午後


暗がりのなかの道標が
なかば暗がりになりながら
暗がりの歩みを導いている
みどり死す日に 生まれる日に


雪と陽のくりかえしから
何も無い場所に増してゆくもの
透明のはじまり
瞬きのはじまり


シラブル シラブル スタッカート
彼は何故あんなにも
呼吸のようにうたったのか
ただそのままに 降るままに


土の下の真実を
照らす歩行者の痛みがあり
刺すものを防ぐ外套もなく
こがねの埃をすぎてゆく


会うべくして会ったのか
となりあっただけなのか
蒔くべき道を蒔きながら
彼は水の光に離れていった


人の居ない列車が
騒がしく夜を走り去る
原には灯
やがて冷える灯


何も持たぬものがひとり進みゆく
曇の匂い
雪は消える
痛みだけが残される


かたちのない道標が
ふたつのみどりにはさまれている
滅びながら 生まれながら
次の千年 次の億年を導いている






















自由詩 夜へ 夜へ Copyright 木立 悟 2009-11-04 01:11:02
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