詩想 —5
黒乃 桜
何でも出来るって事は何も持ってないって事なんだよ。
苦笑というか、呆れたように笑った流音の顔が脳裏にちらつく。
「あー・・新しいの買わなきゃな」
残り一本になったピアニッシモを口にくわえて呟く。
そんな由夜の言葉に、流音はきらきらと目を輝かせてこういった
「え、じゃあそれ頂戴!」
それ、というのは由夜の手の中にあった、もう煙草の入っていない箱の事だった。
由夜は眉間に皺を寄せて、流音を見る。
「・・こんなもの、何すんだよ?」
確かに箱は可愛いし綺麗だが、何かに使える訳でもなく・・。
しかし流音は由夜から奪い取った煙草の空き箱を嬉しそうに両手で持って見せた。
「何も?っていうか、飾っとく」
流音は何か珍しいモノを見るようにいろんな角度から空き箱を見つめていた。
そんなもの、ゴミ箱に入っているだろうに。
そういうのを集めるのが趣味なのか・・?とか色々考える。
「何だそれ・・」
はあ、と溜息を零しつつも呟いた。
「だってお兄さんからもらったから」
それが欲しいの、ってまた笑う。
それが何だって言うんだ。可愛い女の子でもあるまいし。
嬉しくもない、煩わしくもない、だけれど何か変なところに引っかかる。
そんな感じだ。
由夜はいつの間に来ていたのか、自分でも分からないが
煙草の自販機の前で小さく苦笑を零し、お金を自販機に押し込んで迷わずピアニッシモを押したのだった。
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