八月三十一日
岡村明子

夏の終わりを待つ
私の耳には
波の音も
大きな地面を渡る水の音とはついに聞こえない
砂浜を歩きながら
光がどこから来るのかもわからなくなっていた
手を伸ばすと空間がななめになって
空がぐるりと私を掴んだ
すぐそばを犬が走り抜けていく
こうしている間にも
すこしずつ天体は秋へと向かって宇宙の軌道を行くのかと
かゆいような気持ちになって
夏の間
こんなに人でにぎわった海岸が引力を失って
いったいどこへいってしまうのか知らないが
潮の満ち干のように
人はどこかまた別のところに吸い寄せられていくのだ
現れた地面に転がる
私と
打ち寄せられた
海草と
大急ぎで最後の絵日記を描いている小学生と
それぞれに太陽の意味は違うのだが
太陽それ自身はいっこう無頓着に
大きな引力を持って
家族の中心でありつづけている
夏の終わりを待ち
ざわざわする世間とも関係なく
八月三十一日という数字とも関係なく


自由詩 八月三十一日 Copyright 岡村明子 2004-09-16 23:41:21
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