旅人の救われ
吉岡ペペロ
赤目四十八滝すぐそばの温泉旅館に泊まった
滝を散策しようかと地図を貰ったが
往復一時間かかると言われてやめた
湯を浴びて廊下にでると深夜の館内に物音はなかった
愛人がでてくるのをしばらく待った
そのあいだ物音は私の発する溜息しかないようだった
私たちは明かりを消して別々の布団に入った
この爛れた恋情のようなものも最後から数えて後数回かの夜なのだろう
私たちは肉を交わらせることをしなかった
赤目温泉は山のなかにある温泉だ
山のなかの闇と明かりを消した部屋のそれは同質のもののように感じられた
それは背中に張り付いてくるような闇だった
それは川の水のような重たさをもつ闇だった
それは人外の気配に満ちた闇だった
私は山のなかの闇と対峙していた
私は意識に威厳を横たわらせていた
私の身体は今から眠りを貪るだろう
隣で愛人も眠れぬ夜に暗示をかけているようだった
肉ではないなにかで私たちは交わっていた