ひとつ 冬へ
木立 悟







こがねに遠のくものを見ていた
忘れたままの息がひとつ
足元にかがやき 沈んでいった
冷たいまぼろしが 羽をひろげた


蝶は火のなかに火をそそいでいた
空腹への応え
真夜中の曇
蒼い蒼い丘の影


時計を忘れ時を忘れず
目の下はただ黒ずんでゆく
白い壁から溶け出るものが
産毛のようにふりかかる


起こさなければ起きぬ闇
もはや色も無いまばゆい闇から
虫の角 指笛
筆の先より淡い文字


跳ぶように駆けるように雨は去り
夜を夜から外してしまった
海辺の城には誰もいない
戯曲と共に焼かれる帆


巨大な水が背を向けている
風の文を使い果たす
夏と秋を持たぬ原
境に音を引いてゆく影


霧のはじまりの上をすぎ
光は白く遅くなる
冬の大陸がはざまにひしめき
ひとつまみひとつまみしじまを降らす



















自由詩 ひとつ 冬へ Copyright 木立 悟 2009-10-29 20:46:30
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