秋桜は大人になってゆく
あ。

探しているものは案外そばにあって
あちこちひっくり返したりしてるその手の
袖口に引っかかっていたりする


最後にきみを見たのはいつだったか
霧がかかったみたいにぼんやりとしているけれど
かすんだ記憶の中に鮮明な色を残しているのは
火照った身体みたいなうすももいろの秋桜の群れ


ちくっとする思い出はいつだって秋にある


ほんの少し視線を落とせば
すぐに見つけることが出来る花
身長は小学三年生か四年生くらい
揺れる階段に足をかけるまでには少し間があって
でももうきかん坊からは抜け出している
そんなふんわりとしたお年頃


放っておいたって大きくなれるさ


深すぎる空にことりと身を沈め
季節の色を感じてみれば
身体はひとりでにうすく赤く染まってゆく


のぼって来た階段を見下ろしてみる
あの頃のわたしにはたくさんの種がくっついていて
どれがこの小さな花なのかわからないけれど
ひとつひとつの段には確かに花が咲き
優しく愛しく回帰していくって知っている


秋の桜はそろそろと首を振る
懐かしさに思わず手を伸ばすと
袖口から花びらが一枚、ひらり


自由詩 秋桜は大人になってゆく Copyright あ。 2009-10-29 10:22:20
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