秋桜は大人になってゆく
あ。
探しているものは案外そばにあって
あちこちひっくり返したりしてるその手の
袖口に引っかかっていたりする
最後にきみを見たのはいつだったか
霧がかかったみたいにぼんやりとしているけれど
かすんだ記憶の中に鮮明な色を残しているのは
火照った身体みたいなうすももいろの秋桜の群れ
ちくっとする思い出はいつだって秋にある
ほんの少し視線を落とせば
すぐに見つけることが出来る花
身長は小学三年生か四年生くらい
揺れる階段に足をかけるまでには少し間があって
でももうきかん坊からは抜け出している
そんなふんわりとしたお年頃
放っておいたって大きくなれるさ
深すぎる空にことりと身を沈め
季節の色を感じてみれば
身体はひとりでにうすく赤く染まってゆく
のぼって来た階段を見下ろしてみる
あの頃のわたしにはたくさんの種がくっついていて
どれがこの小さな花なのかわからないけれど
ひとつひとつの段には確かに花が咲き
優しく愛しく回帰していくって知っている
秋の桜はそろそろと首を振る
懐かしさに思わず手を伸ばすと
袖口から花びらが一枚、ひらり