言霊
乱太郎

妖言の使者顕われて
戯れる闇夜のひととき
濡れる息使いを殺し
桃源の森を散策する

    (ここには
     あなたとわたし
     しかいない
     わたしとあなた
     だけ)

桜の樹を背に当て
さざめく月を赤い唇で呷る貴女
眩い日照りでは
愛しい貞女
時には花模様の猫
人の気配など寄り付かぬこの場所で
白く妖艶な太腿を晒し
此の世のともあの世のものとも知れぬ唄を
言の葉を手毬の様にあやす貴女

    (あなたに
     見つめられて
     あなただけを
     見つめて)

狂おしい沈黙
獣の薄ら笑みが覗いている
死者の乾いた喉を蔑むかのように
松皮菱模様の帯が長く垂れ
空虚な魂をさらに攪乱していく
時の渦に揉まれながら
淫乱な唾液だけが充たされ
貴方の足先さえ掴むことが出来ずに
月下の饗宴
独り虚しさに交尾する

    (あなたを求めて
     あなたを信じて
     あなたを愛して
     わたしは今夜も彷徨う)


  言霊は
  痩せゆく己を尻目に
  今夜も美酒に酔う


自由詩 言霊 Copyright 乱太郎 2009-10-26 11:07:44
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