ひとと赤と青と
小池房枝

ひとに赤が特別なのは
分かるような気がする
太陽が白だろうと黄色だろうと朝日と夕日
やがて夜には
闇の中にはっきりと赤かったであろう火

まして死にかかわるとき
そして必ず誕生のとき
流す血も
流される血も赤く

おりおりに熟した果実や
肥沃
あるいは不毛である土も
大地も
ひとにとって赤という色が
特別になっていったのは分かるような気がする

けれども青は
ひとの世界が赤茶けていようと
緑であろうと
昼見える限り青くあり続けた空の色とは何か


という単語を持たなかった語族にとっても
命の源であった泉や
湖や
大河や小川やオアシスやカレーズの
その水面の青さとは何か

ニールギリというのは
青い山という意味だと聞いた
一連のベンガル語
あるいはヒンディー語でニルは青

では例えば母なるナイルは
エジプトではアラビア語において川だという意味のナイル
すなわちニル
コプト語ではなんと呼ばれていたのだろうか

もしかすると
青が
エジプトでは流れていたのだろうか

赤い砂漠、赤い歴史を
有史以前ヒトの誕生以前から貫いて
母なる青が
青、そのものが



自由詩 ひとと赤と青と Copyright 小池房枝 2009-10-25 20:03:05
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