ひとと赤と青と
小池房枝
ひとに赤が特別なのは
分かるような気がする
太陽が白だろうと黄色だろうと朝日と夕日
やがて夜には
闇の中にはっきりと赤かったであろう火
まして死にかかわるとき
そして必ず誕生のとき
流す血も
流される血も赤く
おりおりに熟した果実や
肥沃
あるいは不毛である土も
大地も
ひとにとって赤という色が
特別になっていったのは分かるような気がする
けれども青は
ひとの世界が赤茶けていようと
緑であろうと
昼見える限り青くあり続けた空の色とは何か
海
という単語を持たなかった語族にとっても
命の源であった泉や
湖や
大河や小川やオアシスやカレーズの
その水面の青さとは何か
ニールギリというのは
青い山という意味だと聞いた
一連のベンガル語
あるいはヒンディー語でニルは青
では例えば母なるナイルは
エジプトではアラビア語において川だという意味のナイル
すなわちニル
コプト語ではなんと呼ばれていたのだろうか
もしかすると
青が
エジプトでは流れていたのだろうか
赤い砂漠、赤い歴史を
有史以前ヒトの誕生以前から貫いて
母なる青が
青、そのものが