祖母の家出
服部 剛
婆ちゃんが三途の川を渡ってから
いつのまにやら9ヶ月
日曜の朝早く目覚めた僕は
思いついたように動き出し
あまりの遺品の多さに
ほったらかしていた
戸棚の奥から
次から次へと手品のごとく出てくる
衣類や布団の数々を、肩に担いで
2階から1階へと、蟻の気分で上り下り・・・
空っぽになった戸棚に1枚
残された
からくさ模様の風呂敷を手に取れば
この家で30年共に過ごした婆ちゃんが
(いってきます)も言わないで
不思議な家出をしたような
おかしな気分になってくる
からくさ模様の風呂敷を
折り畳めば
ふいに、脳裏に甦る・・・
*
(ただいま)という声がして
玄関に顔を出すとそこには
(もういやになっちゃった)と明るく言い
戻ってきた婆ちゃんは涼しい顔で
家に上がり、開いた襖を
ぴしゃりと閉めて
自分の部屋に、入っていった。
「えぇ・・・!えぇ・・・?えぇ〜〜〜!!!」
と叫びながら目が覚めた
先月のゆめ・・・
*
あまりの遺品の多さに
最近母ちゃんの手は持病が痛み
僕も日曜の朝から草臥れ、腰を床に落とした
亡き人はいつだって
遺された家族に、何らかの宿題を
そのまんまに、置いてゆく
(あんたの嫁さん、見たいねぇ・・・)
生前、見舞いに行った病室で
天井を見ながら呟いた
祖母のひとことが
何処からか聴こえてくるようで
腰を上げた僕は
空っぽの戸棚を
ぴしゃりと、閉めた