客車区
西天 龍
黄昏時、父に手を引かれて
よく見に行った客車区
そこには、旅立ちの準備に忙しい
夜行列車の群れがひしめき合っていた
ベッドメーキングのシーツとカーテン
灯の点った食堂車、純白のテーブルクロス
厨房の中の下ごしらえさえ見えるようで
胸が苦しくなるほど、素敵な光景だった
そのころ旅は
数か月前から準備が進む厳粛な行事
それがいつしか最短時間の移動を意味する言葉になり
ここから見える景色も変わった
母のおにぎりと少し苦しい蝶ネクタイ
行き先はすっかり忘れたけれど
旅をしたことは覚えている
列車の匂いや感触まで、鮮明に覚えている
手をつなぐ君は
無邪気に新幹線に手を振る
旅が、君にとっても祝祭空間であることを祈って
親子で客車区を見つめる