へたるヘタレ
木屋 亞万
トンネルを抜けると山だらけ
あなたにとっては突然湧いて出たように見えるだろう
噎せ返るような木々のうなりは
人間の単位で計るのもおこがましいと思えるほど
遥かなる時を生きている
町ですれ違う人たちは着飾った風景ではない
それぞれ時を重ねてこの場に至ったのである
そのすべてを知ろうとしなくてもいいけれど
その蓄積の存在にすら気付かずに
ぞんざいに扱うというのは
どうなのだろう
目の前にあった木に
気を紛らわすためにした落書きも
道で誰かとすれ違うときに
吐き捨てた言葉と舌打ちも
規則や指導によって改めるものなのだろうか、
考えてみようか
自分の将来とか、地球の将来とか
先のことを模索する前に
よく考えてみようよ、いま自分の周りにあるものを
ブラウン管や液晶越しの社会じゃなくて
紙と文字が描く人間じゃなくて
言葉と流行に踊る自然じゃなくて
五感のすぐそばにある
あなたを痺れさせるものに
身体と心を近づけていこうよ
こんな抽象的な文章群じゃなくて
具体的で象徴性のあるものを伝えられたらいいのだけれど
どうやらそれはできないみたいだ
自分の詩に書いたことすら実行できないへたれな私は
お世辞にも綺麗とは言えない月を眺めながら、遠くの誰かに説教を垂れる
他の誰かがそうしたように
もっとしっかり生きろよと叱咤激励する、何やってんだよと罵倒する
遠くの誰かにぶつけた言葉は
遠くに行ってしまった自分に向けられた言葉だったのかもしれない
あれほど動くなと注意されていたのに
ふらふらとさ迷い歩いてしまって
コンセントが抜けてしまった私には
必要最低限な電力さえ不足している
さみしい世の中だ
さびしい人たちだ
かなしいことばかりだ
そしてそれはすべて私なのだ