姫君
笠原 ちひろ

あんな 最近気づいてんけどな 
あたしの胸んとこにな 
ちっちゃいお姫さんが住みついてるねん

こないだ

心臓がぴーってやぶけた夜があってんけど


そんときにな
破れ目のむこう
飴色の とろとろしたひかりにくるまれて

ちっちゃいお姫さんが
ちょこんと座ってこっち覗いててん

ほんまちっちゃくて華奢でな
黒いながい髪の毛の まだ4、5歳くらいかなあ
フリルのついたきれいなドレス着た
そんなおんなの子

こっちが気づいたのに 向こうも気づいたみたいなんやけど
そんとき
なんかちょっと目えが 怒っとったわ
勝手に住みついてたくせに

やぶけたんはあたしの心臓やん?
やのに さも自分がくつろいでんの邪魔されたみたいな顔してんの
はよ なんとかしてえな
みたいな顔して
自分はなんもせんと
じいいいっとこっちみて座ってんのよ



びっくりしたよ そりゃ
あたし こんな感じやん
おんなの子っぽいのそんな得意なほうちゃうし
ちやほやされて 生きてきたわけでもない
そやのに 胸んとこに お姫さん住んでるんやもん




どうしていいかわからんかったから
とまどってもーて
なんか無視したみたいになってしもたん

だってほんまにわからんかってんもん
黒い長い髪のおんなの子
あたしはそのくらいの歳のとき
ながくながく 髪の毛のばしたかったけど
いっつも あかん いうて 短くされとったから

なんかその子をどうしていいか
ほんま わからんかってん


そしたらな
その子
ずーっとまばたきもせんと こっち見ててんけど
いきなり

すごいいきおいで

うわー

て 泣き出したん


バケツひっくりかえす って 雨降りのときの表現やっけ?

まあええわ

バケツひっくりかえしたみたいに泣いて
からだもひっくりかえして 手足じたばたじたばたして
そら もう 手えつけられへん
めくれあがったドレスの裾からのぞく
白いペチコートがぶんぶん揺れて


そんで 知らん顔してるわけにもいかんし
わけわからんまま
めんどくさいもんが住みついてしもてるなあ とも
ちょっと思いながら

泣いてるお姫さんを 抱きしめてみたんよ

頭が湿っぽくて
からだはやわらかくくにゃっとしてて



ああ

ちいさいんだなあ
ちいさいおんなの子だなあ

さみしかったんだなあ


うん そんで そう思って
抱きしめて からださすったった






けどな。




・・・それからや


え なにが て


そのお姫さんな

めちゃ タチ悪いねん



あたしが気づいたんええことに
ほんで 一回甘やかしたんが悪かったんか
味しめよって


わがまま放題
泣くは わめくは あれ欲しい あれ嫌や
そんなんばっか言いよんの

言うこと 聞いたれへんかったら
もう やること
わっるい悪い

ほんま 根性わっるい嫌がらせしよんねん


無視しとったら ひどい目あうから
難儀やわ





しゃあけど 
困ることもいっぱいあるけど

胸んとこに お姫さんがおるっちゅうのは
いいもんやね

かわいらしくて


守ってあげな と思ったら

あったかい気持ちになる


ハイジとか 読んだったらな
喜ぶねん
おんなの子やね

や おもろいよ



わがままで 気位高くて 大変やけど

そのお姫さんを守るように

そうっとそうっと暮らしてたら

なんか大丈夫な気がすんねん


あたし 大丈夫な気がすんねん





・・・今 お姫さん 眠たいみたいやから

あたしも ちょっと寝るわ









自由詩 姫君 Copyright 笠原 ちひろ 2009-10-23 22:50:37
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