不在の一脚
古月

切り落とされた枝が芽吹いて
いびつに折れた朝の出来事
春まだ浅い日の寝ぼけまなこは
過ぎたことを知らずにいる

幸せな枝に降る雨は優しい
見知った顔をした人達のように
安らぎで包む穏やかな日々に
霞む景色が遠く聞こえる


裏返しても気づかない程の
愛情を着飾る人の庭では
落ちた雛鳥が見る長い長い夢の
未発達な翼が風を掴む

飛び方を知らない人が描いた
構図の狂った空だとしても
いつもの笑顔で笑い合えると
物語る人は信じている


 *


滲んだ線を見限る
理想だけの世界で眠る
我が子を見守る母親の
鉤型の指が指し示す先の

背後で翳る陽差しの塞ぐ
瞼の速度で忘れている
閉じた瞼を開くことも
塞いだことも忘れている


 *


大好きな人たちだけを集めて
楽しく暮らせればそれでいいのに
暮らしの中には不愉快な規範や
あなたにそぐわぬ規則がある

わがままを言うだけの椅子が空けば
食卓は明るく豊かな筈なのに
それはそこに依然としてあるままで
片付けられるのを待っている


理想に打たれる雨の相槌を
調子外れの歌に打つ膝を
歌の上手な小鳥の真似で
羽の綺麗な蝶々の振りで

あなたを愛する人の優しさは
あなたの不在で成り立っている
数え切れない空っぽの椅子に
数え切れないあなたがいる


 *


昨日
あなたはわたしを思う
あなたは皆を愛している
わたしの思う
あなたを思う


今日
わたしはあなたを思う
わたしは皆に愛されている
あなたを思う
あなたを思う


明日
あなたを思う
あなたは思う
あなたを思う
わたしを思う


自由詩 不在の一脚 Copyright 古月 2009-10-20 16:48:04
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