ニベアなひと
恋月 ぴの
新宿駅連絡通路できれいなひとに呼び止められた
朗らか過ぎる白い歯並びと
しなやか過ぎる姿勢の妖しさと
「あなたがあなたらしく生きているとき人は美しい」
白い歯並びからのぞく跳ねるような舌先
化粧品会社のコマーシャルに出ているおんなのひとのようだった
「あなたらしく」
って
「想像上のわたし」らしく生きたいと思ったことはあるけど
あくまでも「そうであって欲しいわたし」であって
たとえばコミュニティサイトのアバターみたいなものだし
わたしがわたしであることを肯定しない限り
わたしらしく生きられない気もして
青白い光の列を掻き分けモザイク通りに辿りつけば
そこには水耕栽培の赤いトマトが生っていた
そもそも「あなた」って「わたし」のこと?
黄昏のジャングルジムから逃れられないわたしだから
カラスが鳴いたとしても帰りようが無くて
熟れすぎた赤いトマトでも食しながら
サヨナラも言わずに逝ってしまったあのひとを偲ぶ