China Price−あの子と私
うめバア

手取り14万で都内のアパートぐらしじゃ
刹那的に生きる以外のライフスタイルなんて
望めないよねと
黄色い電車の中で、話していた女子がいた
おきまりのように「いい人いないかね」と
相づちをうつ、連れの子は
大きなバッグに
中国製のクマをぶらさげていた

私は派遣の仕事の帰り
きょうもネットで仕事検索
学校で一緒だったみんなとも
最近、会うことが少なくなった。
「今、何してるの?」と聞かれても
応えるのが面倒くさい
誇れるものが1つでも
あればいいのに

ジャケット1980円
ニット3900円、ロングブーツ5800円
ケータイ新機種実額0円
Windows Vista搭載PC78000円
DVDプレイヤーがたったの3900円
金さえあれば買えない贅沢なんて
少なくとも現段階では
ないように思われる

モノを通して
人はつながる
ショッキングピンクのスニーカーは
海の向こうの工場で働く
あの子とつながっている
農村から出てきて
大手ショッピングモールやブランドの
大量発注を受注する
下請け企業がこっそり作った、影工場で
法定基準を遥かに超えた長時間
機械の前に張り付いたまま
モノをつくりつづける
あの子と、その友達に

モノは何も言わないし
巨大企業はいつだって
「健全経営」
搾取なんて、遠い昔の話ですよと
涼しい笑顔を、向けるだけ

明日、仕事がなくなろうが
構うもんか
稼げるだけ、稼いで生きると言って
突っ走る人々のエネルギーは
買いたたかれる
モノはどんどん安くなり
不思議なほど簡単に手に入る

明るく楽しい広告が
いつだって、世界を変えてくれるはず
何かがおかしい、もうたくさんだ
そんな声が聞こえたとしても
え、気のせいじゃない? 考えすぎだよ

世界は小さくなり、流れは速くなる
そして
私はようやく知り始める

黄色い電車で話す彼女たちと
中国で衣料品をつくりつづける彼女たちと
ネットで仕事検索をしつづける私
互いに目を合わせることもなく
共有する空間も持てず
引き離されているけれど

はたらくことの凄まじさ
お金を取ることの激しさで

つながっている

だから
たとえ使い捨てだって
意味のないものなんて
何もない


自由詩 China Price−あの子と私 Copyright うめバア 2009-10-15 17:11:36
notebook Home