梅酒
あ。

母が縁の下から引っ張り出してきたびんは
レトロでポップな橙の花が描かれていて
若い頃の彼女の趣味であったのだろうと想像出来た


恐らく本来は真っ赤な色をしていたのだろう
すすけたえんじ色をした蓋は固く
わたしや母の手ではぴくりともせずに


結局仕事が休みで寝ていた父を起こし
ふたを開けてもらうように頼んでみる
力仕事の職人である父はあっという間に
年月の封印を解いて見せた


中から漏れる空気は分厚くうねり
辺りさえも染め上げようとしているように感じる
陽炎のように揺らめきながらじわじわと浸透し
わたしの知らない時間に連れて行かれそうになる


流れをかき分けて覗き込めば
こっくりとした飴色の液体がつやつやと光る
ほんの少しびんを揺すると
おっくうそうに仕方なく漂う


時を越えた美しさにしばし酔いしれ


お酒に弱いわたしは飲まないけれど
わたしと同じくらいお酒に弱いきみが
唯一飲める種類だから


だから小さなびんに詰め替えて
おすそ分けを持ち帰る


百均で買った無地のびん、だけどね


自由詩 梅酒 Copyright あ。 2009-10-13 19:57:01
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