ねえ、神さまへ。歓喜の歌を
笠原 ちひろ
ねえ、神さま。
あたしがどんなに幸せか、わからないだろうね!
ねえ、神さま。
あなたをふたたび信じることができて、
あたしはとっても嬉しいンだ。
おとーさんが死んだあの春から
あなたに値しないと思っていたあたしの上に
今ふたたびひかりが降り注ぐ
誤解は解けるときがくるからこそ美しいね
今は、指先まで無防備にのばしきっても怖くない
綺麗な花や美しい歌
夕食前のスーパー、子供の笑い声
そんなものにこころうごかすのが怖かったはずなのに
今は、つま先までたっぷりと感じきっても怖くない
ねえ、神さま
世界は美しいね
この世の哀しみにあなたは関係ない
あなたは関係ない
善きものであらねば
あなたに近づけないと思っていたンだ
おとーさんが死んだとき
あたしは17で、ずっと口きいてなくて、
その夜は春で、桜で、おとーさんは帰ってこなくて
あたしはしんしんと、これから起こることの予感のなかで
平気なふりして本を読んでいたんだっけ
ねえ、神さま、
あの春をなかったことにして
綺麗なふりをしても
黒いしみはついたままなんじゃないかと
怯えていたんだ
でも、神さま
世界は美しいね
どんな泥の中からも蓮の花は咲く
蓮の花は咲く
精神病院の閉鎖病棟のなかで
痴呆のおばーちゃんの内に、キリストを見た時から
あたしは赦されることと
赦すことを覚えたンだ
あんたはやさしいって言ってくれたね
何故か英語でサンキューベリマッチって言ってくれたね
ねえ、神さま。
あたしがどんなに幸せか、わからないだろうね!
ねえ、神さま。
あなたをふたたび信じることができて、
あたしはとっても嬉しいンだ。
この世の哀しみにあなたは関係ない
どんな泥の中からも蓮の花は咲く
そして、
すべての哀しみは美しい花へと変わる余地がある
あたしはそれを確信したから
きっと歓喜の歌をうたえる