彼岸花
麻生ゆり

長月の夜に
細かく降り注ぐ秋の雨
人も街も月でさえも
水煙で霞んでいる
そんな中
大地を真っ赤にできそうな
目一杯の彼岸花の花の群れに
小さな
水滴が
つく
時には花弁がぴんとはねて
水滴はまるで小さな涙
しかしそれは彼岸のさ迷える魂
二度と肉体をもてない彼らの
地面に落ちるまでの数秒間の
一瞬の身体
水の粒の数だけ魂は宿り
魂の数だけ彼岸花は花開く
花は何も語らぬが
生者も死者も愛おしんでくれる
やがて土の上に降った雫たちが
プチっとかすかな音をたてて
その形を崩すその刹那
魂はまた天に帰る
嗚呼 どうか
また彼らに会えますように…
そして 魂たちよ
また安らかな眠りにつけますように…


自由詩 彼岸花 Copyright 麻生ゆり 2009-10-10 23:15:19
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