或る街の一夜
麻生ゆり
夜の帳がおり
夕焼けが冷めて
世界が暗くなってゆく
傾きかけた三日月の
先端のあまりの鋭さが
薄い刃のようで
闇をちぎっている
今宵もまた新しい夜が誕生したのだ
やがて月はビル群に紛れながら地平線に姿を隠し
都会の闇はなけなしの星で飾られる
そんな当たり前な天のもと
地上を見ると
イミテーションの色とりどりの輝く点があって
夜の街が飽きられることはない
また赤いともし火と白いともし火とが
ところどころ線となって道を作っている
そのそれぞれはたった独りのタクシーの群れなのだ
闇夜が陽光によって追い払われるまで
彼らは蠢く蟻のごと
独り当てもなく走り続ける
その後夜は朝焼けと共に姿を消し
その主役をさも当然とばかりに青空に託す
毎日決められたようにリフレインしながら
こうして今日が生まれるのだ