月光欲 (本木はじめ「夜光中」に寄せて)
ピッピ



ほの暗い世界に浮かぶ首筋に沿われる指がナイフに変わる



地図にも載らない楽園を住民票にも載らない妹の兄一方通行



百回目姉と知りつつ背徳を覚えて二人鉄柵越える



妹の百枚映る鏡あり一枚引けば兄のジョーカー



触れたなら壊れるものが多すぎて見えないものを掬うおとおと



原形を失くすほど焼く華氏百度髪から溶ける妹の微笑



妹の世界が永遠に続くなら僕らは何処で死ねばいいだろう



二人しか知らぬ秘密を庭先で忘れる為に燃やす酷薄



誰もいない森で汗ばむ処女の指に絡まる蛇の抜け殻



五百年あなたの好きな花の名を詰めた棺にあなたはいない



さよならを言う前に僕たちは前世を殺すべきだったさよなら



愛すれどいずれ一匹夏の灯に血の繋がりを断つ夜光中




短歌 月光欲 (本木はじめ「夜光中」に寄せて) Copyright ピッピ 2004-09-14 20:00:05
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