顔のない夢
瑠王

まだ、私の夢に虚無は訪れていない


スロウで駆けてくる
馬の筋肉の躍動が
私の夢を横切る

霧のように潤ったこの部屋で
枯れたダリアが
二、三枚の葉を落とす

紙風船のような歌声が
窓の外から浮かんでくる
私の愛した声色は盗まれた
外を見ずとも主がわかっている
双子がいる
対なる二つの名前を
何故か私は知っている

いつからか其処にいる
切り揃えた髪を耳にかけて
横顔よりやや向こう
知っているのに
君を確信できない
焦点はうなじにのみ注がれる
試みるが
思い通りにはいかない

窓を見る君は
何か言っているが
双子に耳は囚われたまま
鳥籠が揺れる

漸く手が
君の肩に届いたところで
反射する光に眩んで
意識が動揺する
鳥籠が揺れる

ともなく
駆けてくる馬の筋肉の躍動が
私の夢を遮る


カーテンは閉じられ
今度は
コバルトブルーと
オレンジが
途方もなく


女の夢を見た
髪の一筋まで記憶しているのに
彼女には顔がなかった
此方で私は彼女を探しにゆくのだろうが
気づかぬ間に
彼女との出逢いは
果たされてしまうだろう
いつ出逢うともわからぬひと
彼女には顔がなかった




自由詩 顔のない夢 Copyright 瑠王 2009-10-09 20:54:06
notebook Home 戻る