空は泣いてなどいない
たちばなまこと


泣いて
泣かないで
つめたい雨が心臓に流れこむ
あなた
わたし
だれか
いいえ あなたの
熱い 肩や指先の
感触たちがおしゃべりする
わたしのからだに
夏が帰ってきたみたいだよ

耳から
ひとつの秋がそそがれる
濡れてひかる
赤い落ち葉を拾う
ひとつの終わり
ひとつの始まり
プレリュードが凍えてもなお
顔を上げ
凛と立つ

欠けているときほど
ほしいよ
高まりが
太陽の裏側まで
いってしまうほどに
いつまでもうつくしい人と
呼ばれていたい
愛されることに
慣れてしまっている

「どうしたの?
 いったい
 きみはどうしたんだい?
 下ろした根をひきとって
 旅に出ようとしているの?」

わたしは泣かない
いつか来る終わりが
せめて 遠ざかるように
からだを細らせながら
祈っているだけ

あなた
わたし
だれか
いいえ わたしが
プラットホームで
かなしい色をして
雨の日は
不安を浮かべて
子どもが泣く
泣き疲れて眠る
わたしは空を突き刺し
それからはもう
からだをまかせて
雨のひとになる
傘はささずに





自由詩 空は泣いてなどいない Copyright たちばなまこと 2009-10-07 06:35:21
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