オブジェ
中原 那由多

疲れ果てた顔つき
何の躊躇いもない秒針が羨ましく
刻み込みのリズムを子守唄にしたら
左手の力が抜けてゆく
ほんのわずかに視界が歪んで
部屋を真っ暗にしたくなった


家の裏にいた黒猫を見下ろした
本物の猫背は柔らかそうで
ぐっと背伸びしてから寝転んだ
自分なりの表現では満たされない隙間があり
ひたすら慰めの答えに媚びる
抹消したい記憶ほど
深く根を下ろしているのは
必要性を訴えているからだと擁護する


理性に反した行動は
己の首を締めることしかできなくて
一般教養の抜け穴を指差して
潜り抜ける人はそういない

投げ渡された論文たちよ
だから私は怯えているのだ


携帯電話に映った自分の目は
何を欲しがっているのかがはっきりしていない
底を歩いていれば上るしかないと高をくくっていたら

実はまだ、下へ続く梯子があった




自由詩 オブジェ Copyright 中原 那由多 2009-10-06 19:11:12
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