オブジェ
中原 那由多
疲れ果てた顔つき
何の躊躇いもない秒針が羨ましく
刻み込みのリズムを子守唄にしたら
左手の力が抜けてゆく
ほんのわずかに視界が歪んで
部屋を真っ暗にしたくなった
家の裏にいた黒猫を見下ろした
本物の猫背は柔らかそうで
ぐっと背伸びしてから寝転んだ
自分なりの表現では満たされない隙間があり
ひたすら慰めの答えに媚びる
抹消したい記憶ほど
深く根を下ろしているのは
必要性を訴えているからだと擁護する
理性に反した行動は
己の首を締めることしかできなくて
一般教養の抜け穴を指差して
潜り抜ける人はそういない
投げ渡された論文たちよ
だから私は怯えているのだ
携帯電話に映った自分の目は
何を欲しがっているのかがはっきりしていない
底を歩いていれば上るしかないと高をくくっていたら
実はまだ、下へ続く梯子があった