世界の終わり
within

授業が終わると、真っ先に教室を出る
いつもなら軽音楽部の部室で
とりとめのない話をして
演劇部の発声練習を聞きながら
ひとりの娘の姿を追いかけるのだけれども

夏休みの間、炎天下の中ひたすら肉体労働をして
用意した二十万

今日、フェンダーのストラトキャスターが届く

だが道はひらけていない
冷ややかな爬虫類が舌を出して待ち受ける

「な、千円貸してくれよ」

「ちゃんと返すからさ」

「な、一万でいいからさ」

「俺たち、友達だろ」

と舌を出して僕に巻きつく
結句、財布の漱石はいなくなった
家路に伸びる陰鬱な影

しかしストラトキャスターの到来が
全てを忘却と恍惚の世界へと
導く

アンプからシールドをギターに突き刺し
ボリュームを上げて
弦を一息で掻き下ろす
鼓膜は震え 全身の細胞も揺れる
大音響に上りつめる高揚感

ギター一本で世界を変えてみせる

傾きかけた太陽を背後に
仕事の終わりかけた労働者たちが
車を走らせる
クラクションの向こう 道の真ん中で
紺色の傘を差し 青いパジャマの上下に
モスグリーンのジャンパーを羽織った
白い髭を生やした初老の男が
こちらを見ていた

「君は大事なものを失くした」

「君が再び欲しがっても
君には手が届かない
君には資格があるかもしれないが
残念ながら、皆待ってくれない」

 「君が辿り着く前に、世界は終わってしまう」

あなたは何様ですか?

   わたしは神様です

幼い頃
まだ両親と狭いアパートで暮らしていた頃に見た
大きな影
僕の手のひらに
動かなくなった甲虫をのせた

「君に大事な秘密を託すよ」

干からびた抜け殻は
何か未来への重しのようで
見つからないように
道の脇へ捨てた

自転車のペダルが重くなった
それでも止まらない
夕焼けは影を引き伸ばし
遠く彼方から聞こえる残響のように
次第に途絶えつつあった
目にはうっすらと涙のようなものが
浮かんでいた


自由詩 世界の終わり Copyright within 2009-10-04 20:23:47
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