シンメトリー
小林 柳



平行に並ぶ名もなき ひとびと
ひだまりに眠る消火器のように
ここはとても静かだ
行きつ戻りつする僕を
そう眺めないでくれ
悪気はないから 嫌わないでほしい

見渡す限りの名もなき ひとびと
僕の方を見つめている
その後ろを見つめている
探し物をしているひとびと
手伝いましょうか と何度も言った
僕の声は聞こえないらしい
きっと嘘だと思ったのだろう
日に日に消えていく僕の言葉だ
それも無理からぬことだ

名もなき ひとびとのなか
名もなき 私
誰にも見えなくなる前に
透明な息遣いを求めている
この不可避な平行線の上で
名もなき ひとびとの列を覗きこむ
一つ一つの顔を
名もなきまま
一つ一つ忘れていく
通り過ぎてゆく風景のなか
退屈なシンメトリーのどこかに
反対側から覗きこむ
驚いた顔のあなたが見える



自由詩 シンメトリー Copyright 小林 柳 2009-10-04 01:51:45
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