この世界の片隅のバランス オブ パワー
N.K.

その時
百日紅は花を咲かせて
夏になったことを教えてくれたけれども
夏が終わったかどうかには関心がないらしいので
花を咲かせたままであった

今がその時だと 秋の虫は
ギーギー ギーギー この夜の静けさの中
秋の輪郭を 削り出しているのであった

削りだされるのは 緑色から黄色へ移ろい
茶色へと至る銀杏の葉のグラデーションのようにではなく
夏の空気と秋の空気が 高気圧の関係で
入れ替わるようにでもなく
つまりは例年のように
夏から秋へと移ろい変わるようにではなく


夏が徐々に剥がれていき
その下から秋が顔を出そうとすると
百日紅は 咲かせたままの花の鮮やかさで
虫の勤勉な野望に立ちはだかる
つまりは 夏から秋への移ろいなど
百日紅には意味がない

百日紅は紅く自分の季節を強靭に持続させる
その鳴く音で虫は自己の覇権を周囲に唱える
安易な折衷案など
役にたたないという様子で

この時 この世界の片隅で
小さな季節のバランス オブ パワーにより
日頃 我々をこの世界に縛り付けている
退屈な四季の移ろいからの
独立を意図した生活圏が ひっそりと
立ち昇り行く

手元ではじいたコインが偶然立ったかのように
その場で私は息を潜める じっと
不確定性原理とはどういうことだったかと
頭の片隅で問いながら


自由詩 この世界の片隅のバランス オブ パワー Copyright N.K. 2009-10-04 01:14:09
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