ぱっぱかはしる
とうどうせいら

あのひとのお勤めする
ひんやり白い建物を
思い描いている
あのひとの好きな
歯の痛くなる甘いお菓子
コンビニで買ってみる
あのひとと一緒に行った
細い道を
一人で歩いてみる

なんでもいいから
あのひとのかけらを集める

時計を見ながら
あのひとの暮らしを思う
会社に行っているのかな
お昼休みかな
疲れてためいきついたりしてるかな
自転車で帰るのかな

あのひとはいつも
はつらつとしていて

わたしは家に引きこもり

まあるくなってかたつむり

モノが当たればすぐにツノを引っ込めるし
しんどくなると殻にこもる
ゆるゆる生きていて
あのひとのあったかさだって
殻越しにしか知らないわ

なんであのひとは
のろい軟体動物を好きになったんだろう
紫陽花の葉っぱをかじりながら考えよう
塩かけちゃイヤよ
ぬるぬる

わたしがかたつむりなら
あのひとはお馬
首の筋肉がきれいなお馬さん
いったん走り出すと止まらない
ぱっぱかはしる
ぱっぱかはしる
ぱっぱかはしる
ぱっぱかはしる

問題は

かたつむりとお馬さんは
お付き合いできるのかっていうこと
うっかり踏み潰されないのかな
走る背中にちゃんとつかまれなくて落ちないかな
間違えて飼葉桶に落ちて
餌といっしょに食べちゃわないかな


この小ささが困るの


お馬さんとおんなじサイズになりたい
せめて踏んでも壊れない大きさに


今日もがんばった
ちょっとエスカルゴっぽく見えるって言われた
そんな中途半端な成長じゃイヤ

はぁ


どうしてなんだろう

日が経つと夢みたい

胸と胸をあわせると
お互いの命が
とくとくと鳴っていた
まるで一枚の皮膚を
はさんでいるみたいに

あなたがなんなのかわからなくて
キスとかしてみた
自分から

唇から草の匂いがした
胴は鞍の跡がついて傷んでいた
あのひとを
見つめていたら
一瞬だけ開いた
縦長の瞳

知らないことはきっとたくさんある
だけど

かたつむりでもできることはありませんか

なにかしてあげたいし
されたいし
いっしょにいたいし
ただ
それだけ


わたし
お馬さんがすき


かたつむりができること

そうね
たとえば

あなたが望むなら
粘液の出し方を教えてあげます
オーロラ色の
キメキメのやつ

一緒にがんばりましょう



いつかあのひとは
わたしのこと
知らない内に
踏んじゃったりする
かもしれない

それでも
ここにいる

ちょっとなら痛くないわ



お馬さんは
わたしを
背中に乗せてくれる

走る風を
見せたいから


落とさないように

そっと


自由詩 ぱっぱかはしる Copyright とうどうせいら 2009-10-02 20:58:17
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