ぼくは どこへも行けない
yo-yo
ぼくは 生きています
なんとなく 生きています
いいえ ほんとは
生きたいと思って 生きています
ぼくはときどき 詩を書いています
詩のようなもの と言ったほうがいいかもしれません
なぜなら それを書くのは もうひとりのぼくだからです
もうひとりのぼくは ぼくから逃げようとします
うまく逃げきることができたとき そいつは
詩のようなものを 書いたりするのです
ぼくから逃げているので
そいつの言葉は ぼくの言葉ではないみたいです
すこしずつ ずれてしまうのです
だからそれは 詩のようなものなんです
生きているから 恋もします
恋するぼくは 木です鳥です ときには風です
知ったことではありません
なぜならそれは 恋のようなものだからです
ぼくを置き去りにして 勝手に恋をしてしまう
ぼくにもよくわからない
そいつはやはり 木です鳥です 風です
恋するぼくは 木のまんま
飛びたった鳥は 帰ってきません
たぶん 風になってしまったのでしょう
ぼくのようなぼくが ひとり
メンデルスゾーンをききながら
アントン・チェーホフを読んでいます
あれはマンドリン いやバイオリン
それとも古い桜に 斧を打ちこむ音でしょうか
弦が切れたら 静寂
本を閉じたら 暗転
みんな退場したので ぼくも消えます
消えても 消しても
ぼくは どこへも行けません