well/井戸
月乃助
ここにいれば安全なのです
ここを出なくても 生きていける
そう、それならば…
違うのです
知っているのですから、外界の情報は、
過多になりすぎるほどに 手に余るほどに
だったら、なぜにそれを恋がれるというのですか、
まっているのは、けして幸だけではないはず
不埒な不幸かもしれない
形を成さないそれを
対象化させた時から始まる 具象した哀惜のおとずれ
実体を成したときから、おぼろげなそれはもう
手をはなしてくれは、しない
ここにいるのが苦しいのは、
その理由を把握していないから
きっと、ここにいさせられている、ということなのです
ここを出て行かないおかげで、何かが、
いえ、何も変わらないということの
その恩恵を、誰もが味わっているとしたら、
ここを出る理由はあるのですか、
きっと、その時がきた時には、
嫌でも出なければならない
この世などそんなふうになっています
誰も、井戸に暮らすものたちはみな
底から見える青空を見上げながら
力をつけているのです
外界に出る準備段階の、イメージ・トレーニングを重ねながら
嫌なほどに、現実はせまってくるのでしょうが、
十全に生きながら、水位の飽和点の訪れはやってくるのです
驕るものたちを嘲笑うことのできる時が、
それを投げ出しているものたちが多くても
どうやっても迎合する必要などないと、
四方のぬれた壁をみつめながら
それがゆるされる、時間の使い方も長いここでの暮らしには
必要だということもあるのです
ここを出る時のために
井戸の中で息をつまらせるのではなく、
すこやかな安らぎを求める、
いつかやってくる
大海を待ちのぞむために、