予備校のテニスコート
吉岡ペペロ

ぼくが通った予備校にはテニスコートがあった
ぼくは予備校の仲間たちとテニスに没頭した
二十年まえの話だ

ぼくらの他に
テニスコートを使用する予備校生はいなかった
ぼくらの異様な熱気に
だれもテニスコートに入って来れなかったのだ

マイラケットまで買って
ダブルスを毎日のように繰り返した
日焼けで目立ちはじめたころには
まともな試合が出来るようになっていた

サーブやロブショット
バックハンドが板についてくると
こんな感じで勉強すれば志望校にも入れる
そんな気になっていた
授業にはたまにしか出なかったが
先生たちはぼくらに無関心だった

テニス仲間はすこしずつ減っていった
夏まえにはシングルの試合しか組めなくなっていた
ぼくひとりになってしまうこともあった
そんなときはサーブの練習をした
ぼくはむしろそれを喜んだ

強烈なサーブがだれもいないコートに決まる
ぼくは『意味』から解放される
いまがベスト、
いまがベスト、
ぼくはそう呟きながらサーブを打ち続けた
いまも事あるごとに出るその口癖は
あの予備校のテニスコートで生まれた


その予備校はいまはもうない


自由詩 予備校のテニスコート Copyright 吉岡ペペロ 2009-09-30 13:24:35
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