ごむまりの月
岡村明子

紺がすりのような夜を眺め
穏やかな一日を思ううち
心は幼年に浮遊して
小さな手から落としたごむまりを
おにいちゃんが思いっきり地面にたたきつける
ぽーん
ぽーん
空を見上げて
追いかけ
走る
ぽーん

ごむまりの放物線は高くたかく
ついに夜空の穴にすっぽり嵌まって
地面に帰ってこなかった
「あれが月だ」
とおにいちゃんは教えてくれた
そして
「あれが一等賞なんだ」
とつけくわえた

駅からの帰り道
明日の仕事がつまったカバンをぶらさげ
マンションの立ち並ぶ中にある
小さな栗畑から
道路にこぼれ落ちている
いがぐりに目をとられている隙に
あのときのおにいちゃんが脇を
走り抜けていったかもしれないと
そんな童話のようなことを考えている
大人の自分に
幼年時代すら
創作するしかない自分にも
一等賞の月の光は照らすのだった

ぽーん
ぽーん
こどもたち
うすく光って



自由詩 ごむまりの月 Copyright 岡村明子 2003-09-30 22:26:58
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