悲鳴の周波数をあわせて
あぐり
夜中のうちに
鍋の底で腐っていくとろけた大根が
少しでも悲鳴をあげてくれれば
わたしはすぐに火を点けて救いだしてやれるよ
*
流れる景色を見つめている
次々と集まり出すこの電車内の人、ひと、ひ、と
あんまり一緒にいすぎると腐っちゃうの
(やわらかくやわらかくとろけていく)
携帯の画面で髪をせってぃんぐしている男子高校生がわたしにはわからないままだから
今すぐ悲鳴をあげてくれたら
わたしはきみをあいせたかもしれないのに
*
ねぇどうして誰も声をあげないのかな
わたしには届かない周波数で喚き散らされた たすけて が
この世界中の空や海を覆い尽くして
いつの日か(そう遠くはない日に)
わたしの鼓膜を破っていくんだろう、そうだろう
そうに違いない
あなたの たすけて
悲鳴をあげてくれたら
今すぐ起き出して
温もりを振りほどいて
火を点けてあげる
だって
指先だけで救えるものがあると知っているのだもの
わたしは
*
線路を踏みつけていく電車内で
鼓膜が無くなるぐらい大音量のヘッドフォン装備しながら、わたし
今朝棄てるしかなかった大根を思い出している
*
悲鳴を
あげていたのかもしれないわたしもきみもあなたもぜんぶぜんぶが、ぜんぶが
瞼だけが熱を持って
流れ落ちる景色を見つめている