「青髭」
月乃助


何をもとめているのですか
住まう屋敷は、祝福の
それでいて、囲いのなかでしか息のつけぬ
囚われの日々なのです
渡された鍵で開ける 日付さながら順番の
カレンダーの四角く区切られた部屋たちに
重い鍵の束は、ひとつのこらず
あえぐように答えてくれます

髭は青くからまり、Ж▼―――

―― そうしていればよいのだ
   それが、おまえに課せられた運命なのだから
   何不自由ない暮らしに、村人の誰もが
   羨望で見つめるだろう
   おまえは、ここで幸せなのだから

使われるごとに 手に余る
昨日をとじ 今日をあける
その繰り返しに 鍵は疲弊するのに
占有する仕事はやまずにやってくるのです
休み無く わずかに息つくこともゆるされない 
平穏をうらやみ 胸をふるわせる幸せも、
あきらめに涙した日も、
カレンダーの紙に描かれた
めぐり来る四角い枠をみたしていたはず

明日をあけることはゆるされずに
ただ、来たものを目の前に開く怠惰な反復運動
それは、部屋の扉をすべてときはなつように
心まつ すくいをもとめた願いでした
恐ろしさをかくし
そうであっても、ゆるされるならば
限りなくめぐりくる日を 
完全に解き放ち からっぽのまま置き去りにしてしまう

ただひとつ
小さな鍵のその部屋だけは、
いつまでも傷にさらされた 扉の
そこを開けることだけができずにいました
あまたな裏切りが 浴槽の中に血染めに横たわる
それが分かっていてもなお 恐れおののくのは、
囚われ人の消え去らぬ想いが
つめたく体のなかより見つめているから

物語の終焉を知っていながら、
いつその部屋に踏み入るのかを 待ちのぞむ
小部屋のあらたな住民となるその日を…

分からないのです
それほどまでに彼を憎むのなら、
なぜにここにいまだに いるのか

長く、暗い 闇を手探る小部屋の鍵は、
手にした鍵の束に 一番小さなそれだけが
どうしても 逝かずに残っています
てのひらに焼かれた 鮮明な
紅いあざのように、






自由詩 「青髭」 Copyright 月乃助 2009-09-29 02:21:28
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