Left
小林 柳
もう描きたくないと
イーゼルを蹴って君は出て行った
僕は君の絵がいつも好きだったのに
君は前に言った
キャンバスはこのまま
これ以上にはならないと
絵筆を持ったままで
白い布をじっと見つめていた
僕は君の絵が
とても綺麗だと思っていたのに
何も描かれなかったキャンバスは
倒されたまま横たわっている
残されたスケッチブックは
夕方の風になびいている
めくられる白紙のページ
君のさみしさは手つかずのまま
ここに残っている
開いたままのドアの向こうは
暗くなり始めている
冷たくなった夜風は
君の匂いがした