瞼の裏
花形新次

有機的なガラス球に映る
饒舌なアナログ風景には
浸透圧によって
軟化症の脳髄に滲み込む
適度に塩味のきいた音楽が
騙し絵のように
隠されている

だから
ふ菓子程度でしかない信仰を纏った
前衛芸術家の説く
愛を疑え
この小銭収集家の
澱に似た性癖は
夜な夜な
とっておきを
縛りつけていたか
それとも
縛りつけられていたか、だ

3つはない瞼の裏こそが
恍惚と真実の最大摩擦係数?

街外れの森林砂漠にある
緩い有刺鉄線で囲まれた
リーマン幾何学者専門病棟で
Uは
漂白された壁に浮き上がった
青年将校の影に
眼を閉じ静かに話しかけた

「きみは、お母さんを愛しているかい?」
「きみは、お母さんを愛しているかい?」
「きみは、お母さんを愛しているかい?」
「きみは、お母さんを愛しているかい?」

少年合唱団の歌声は次第に途切れ途切れになり
左利きは更に速度を上げた

101万回繰り返した後ついに
Uは
虹色の白濁絵具で封をした
M・Mへの心中依頼を
空中に向かって投函した


自由詩 瞼の裏 Copyright 花形新次 2009-09-27 06:16:50
notebook Home 戻る