カタクチイワシと仔猫たち
相田 九龍

「カタクチイワシを一言で言い表すのは難しい」
爺さんがそんなことを縁側で呟いていたので

爺さんに聞こえるよう
「ニシン」
と呟いて宿題をするために部屋に戻った

部屋の勉強机は窓の手前にある
その窓から下にある庭が見える
爺さんはまだブツクサ言いながらゴルフの素振りを始めた

ブロック塀の上で仔猫たちが寝ている
思わず散歩したくなるような陽気で仔猫が羨ましくなる

爺さんの素振りは下手糞だ
見てられない

ふわっと風が吹く
心地よい風に、爺さんも顔を上げた
空には魚のような雲が泳いでた

爺さんはもう一度グラブを構えた
神妙な面持ちでスイングに入る

初めて爺さんの構えが綺麗だと感じる

「ニシンッ!!!!」

と言いながら振り抜いたグラブは
空気のボールをどこまでも飛ばしていった
魚の雲にはいつの間にか目ができていた

「ナイスショット!!!!」
と叫んで、俺と爺さんは笑いあった

仔猫たちはブロック塀からいなくなっていた
ニシンを食べに行ったのかもしれない


自由詩 カタクチイワシと仔猫たち Copyright 相田 九龍 2009-09-27 03:45:23
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