「秋のわかれる」
月乃助


置き去りにされた
残骸の片方だけ残る後輪に
硬質ゴムの黒いよごれは、
動くことのない平衡を失ったもうひとつを捜してた
均等に働く両足の仕事のようにもとめあう
互いを見ることもなく、罵り合うように音をたてる
タイヤたちならばなおさら それでいて、
支えあい、全く疑うことがない大地へのはんぱつ
重い車体を駆けさせる力を熟知する

= クウォン = クウォン = ウォン
シャフトの上下する п》》》

― いつまでも鳴りやまずに…いる 

それは、確かに
調和のなかにあるはずのふたりが
想いやりながら 言葉をかわさず
愛をなすりあう姿に 違いないのに、
悲哀や歓喜、愛しさや憎しみさながら
対峙しながらも、目的に向き進む先を与えられ
ホイールさえもなく 錆びを露呈する無残であっても
なおも互いを要する姿だったはず
何者にも邪魔されることなく眠っているように
曲がった支柱を腹に刺す 痛みなどないそれが、どうしてか
痛ましく見えるのは、残骸などとよばれるまえの
あるべきふたりの恋人達のような姿を知るためか、
陽のなかに死に絶えながら、まだその息を潜めるのは、
おまえが連れて行ってくれる
疾駆したその夢の先への出口がそこだから

昼と夜の長さが変わることのない
公転上に見まがうことなく存在する
季節を裂く秋分、冬に向かい始める道行へ
投げ堕とす影さえ、その長さを高さに等しくする
均等に分割された半分が終るのでも、
残されたものが始まるのでもない日
の影が 陽をひしゃげたように
疲れたゴムのありようもない光沢を見せる

― 眠りから覚めても、ひとりおれのすることなど、
 もう何もない。ここには、この陽のなかで…

うずくまった鉄屑の降り注いでくる想いが、
わたしの壊れた車のような右足を
残された後輪が問いかける 
― おまえも失ったのだろう
― いえ、わたしは無くしは、しなかった
   片足をいやになるほど壊しただけ
ながい陽のなかでの爬行、今では、回復した重さに
いつまでも、そこに立ち尽くして眺めていた
エンジンさえない、
車という存在理由さえも削り落とされた、
鉄の塊のあわれが、
後輪をつけたこの体に 人車として蘇生する想いだけが
ふらちな 合体物の姿となって
そこに
現れて消えていた







自由詩 「秋のわかれる」 Copyright 月乃助 2009-09-27 01:11:51
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