悪いもの
キキ
八月、うずくまっている
土のうえに手を置いて
雨がその地面を濡らさないかどうか、君と賭けをする
そうして動けないものだから
悪いものたちがやってきて
首の後ろあたりに留まっていく
君はわたしの横に座って
雨粒の大きさを測っている
*
スカートの裾を伸ばしている隣の女の子の
横顔には眉毛がなくて
この世のひとではないみたいだ
少しずつ形がくずれていって
襞だけがただしく膝のうえに折りたたまれていく
昨日食べた梨
わたしは電車に乗っている
どこかへ行くことが大事だと喋っている
悪いものたちがついてこられないスピードで
動きつづけることが肝心だと
君はわたしの横にではなく
向かいの席に座って
大人しく聞いている
そうしてひととおり語り終えると
わたしたちは手のひらを上に向け、ふたたび静かな賭けを開始する