いちご通りの話をしよう
あ。
うちから少し歩いたところに住宅街があった
大通りから出る七本の細い道で構成されており
それぞれの道には一号通りから七号通りまで
安直な名前が付けられていた
小学校に上がって通い始めた書道教室は
一号通りの突き当たりにあった
クラスで一番仲の良かったミキちゃんの家は
一号通りの中ほどにあった
なので一号通りを通る機会は多かったのだが
子どもの頃のわたしは一号通りをいちご通りだと思っており
何て素敵な名前の通りなんだろうと思っていた
これは偶然なのだが
ミキちゃんの家でいちごを育てていたのも
誤解を信じさせる一つの要因だった
わたしは一号通り以外の通りの名前を知らなかった
知っていたら間違いに気付いたのかもしれなかったのだが
そのせいで想像力はとどまることなく加速してしまう
他の通りにも果物の名前が付いているに違いない
メロンやレモンやみかんといった色とりどりの果物の
かわいい名前が付いているに違いない
空想はとりとめもなく時間を奪い
流れる雲も形が変わって
空の色も温度も毎日変動しながら過ぎていく
手を伸ばせば触れられそうな夕日も
段々にしおれて首を垂らしていく向日葵も
子どもながらに声を上げてしまいそうなくらい
胸が苦しくなってしまう
その通りがいちご通りではなく一号通りだと知ったのは
向日葵の姿も消えて田んぼの稲刈りが始まった頃
鮮やかに色づいていた空想が
みるみるうちにセピア色になる
全てが輝いて見えたあの通りは
突然たくさんのなかの一つになってしまう
溶けた風景の美しさに気付くには
わたしはまだ子どもだった
とても残酷な子どもだった