チエとピサの斜塔
巧
妹のチエと一緒にイタリアに行きました。
チエは、ピサの斜塔に会うとまっさきに
学校の近くの倒れかけた電柱のことを教えてあげました。
ピサの斜塔はにこっと微笑んで言いました。
「なんだ、皆私の事を斜めだというけれど
世界の方が斜めだったんだね」
チエは旅行から帰ると
倒れかけの電柱のところへ行きました。
そしてピサの斜塔のことを教えてあげました。
「俺はもう倒れかけてるのだと、さんざん言われたけど
倒れかけているのは世界だったのか」
電柱は笑いながら言いました。
学校からの帰り道。
みんなが自転車を降りて通る坂道がありました。
チエは坂道にもピサの斜塔のことを教えてあげました。
「みんな私の事を斜めでつらいと言ってたの
でも私を過ぎた後の方がつらい斜めなのね」
坂道はみんなを心配するように言いました。
チエは3年前に、この坂道を過ぎたところで
交通事故に遭い、足を失いました。
いえ、チエではなくて
世界が事故に遭って斜めになったのです。
世界が斜めになったことを
チエはたくさんのものに教えてあげました。
もっともっと色んなものに教えてあげたいとチエは言います。
だから僕は今日も斜めになった世界で
チエの乗った椅子を押していきます。