Nostalgia/郷愁
月乃助
蝋燭のともしびを
絶やさずに
湯気立つ水槽をわたり切る
それが使命なら
ひどく単純な、それでいて命をかすもの
人の犯した罪に/穢れ/しがらみに
神の子がみずからを捧げたように
汚辱にうずまいているそこを、
みたしていよう と なかろうと
それこそが なすべきこと
そのために あなたがいるのだから、
一縷の望みを背負わされた 詩人の
仕事を誰もが 嘲笑う
何も変えることなどできやしない、
誰も期待したりしてはいない、のだから
ひとり英雄ぶるのもいい加減になさい
遮断する世界の
家に閉じこもり 人の声からにげても
逃げ切れないだけなのでしょう
この世が水にうまろうと、
火に焼かれようと、
我が身の安穏と
家族の団欒を望み 手のひらばかりの幸せをもとめる
あまたな他人とすんぶんかわりようもない
いったい詩人に何ができるというのです
心の 言の葉の発露に
揺れ動く空気の
いつまでも連続する音波の振動さながら 連綿とつづく
それは、本当に
慶びの食卓に、神聖な赤卵などでなく
鶏をはなつような
そんなことが…
ほら、まだ笑ってる その口元に
石をなげつけられたら、 だったら
もう心をきめたらどう
蝋燭に灯をともし
水槽をわたってしまいなさい
詩人の運命をみちびきだせるかもしれない
この世のあてもないデキゴトヲ ナゾル
ガゾウヲ ミツメテバカリ
イルヒマハ イマハモウ
ナイハズデショウ
※ タルコフスキーの『ノスタルジア』からのイメージ