晩夏に
美味


晩夏がこっそりと
私にかけた、風邪

現実と現実じゃないところを行き来する間
畳から忍び寄る
蚊取り線香と、い草の
ほんのり甘い、苦い匂いを飲み込む

日が沈むにつれて
赤みを増す天井は
目を閉じたままでも感じ取れるほど赤くて
咳き込むほど、口の中に広がる、鉄の味が
余計にひどく感じた

熱に浮かされた熱い吐息が、水蒸気になる瞬間の
「しゅ」という音が
聞こえなくなったのはいつのころからだろう



枕元に置かれたポカリスエットは
二口ほど飲んだだけで、蓋も開いたままだ
結露して浮き上がった水滴が
畳の色を濃く濡らしている


もう帰ってしまったヒグラシの声は
頭の中では延々と鳴き続けてるというのに







自由詩 晩夏に Copyright 美味 2009-09-23 02:27:03
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