観音像の笑う夕暮れ 
服部 剛

夕暮れの食品売場で 
偶然、2年前に他界した 
認知症の婆ちゃんの、嫁さんに会った。 

「あの・・・デイサービスのはっとりです」 
「あら・・・私達とっても感謝してますよ」 
「いえいえ明るい婆ちゃんで、 
 あの唄声をずっと僕等は、忘れません。」 

そう言って胸に手をあて 
歓びの目を互いに見てから 
嫁さんに(また)と手をふった。 

ひとりになって歩道橋に佇み 
夕陽の揺らめく山間に埋もれたように 
顔を出す、瞳を閉じた観音像。 

(ありがとう・・・) 

貧しき信徒である僕は 
とっさに小さく十字を切った 
胸に両手をあわせた後に 

はっ、として頭を掻く。 

ふたたび見上げた
観音様のふこやかな顔は  
夕焼け空に染まり  
微かに目尻を、下げていた 





自由詩 観音像の笑う夕暮れ  Copyright 服部 剛 2009-09-22 21:18:00
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