観音像の笑う夕暮れ
服部 剛
夕暮れの食品売場で
偶然、2年前に他界した
認知症の婆ちゃんの、嫁さんに会った。
「あの・・・デイサービスのはっとりです」
「あら・・・私達とっても感謝してますよ」
「いえいえ明るい婆ちゃんで、
あの唄声をずっと僕等は、忘れません。」
そう言って胸に手をあて
歓びの目を互いに見てから
嫁さんに(また)と手をふった。
ひとりになって歩道橋に佇み
夕陽の揺らめく山間に埋もれたように
顔を出す、瞳を閉じた観音像。
(ありがとう・・・)
貧しき信徒である僕は
とっさに小さく十字を切った
胸に両手をあわせた後に
はっ、として頭を掻く。
ふたたび見上げた
観音様のふこやかな顔は
夕焼け空に染まり
微かに目尻を、下げていた