零の抵抗
セルフレーム



あの方は綺麗ね


本当に美しいわ―・・・





零の抵抗





あぁ、とっても昔の話ね・・・
彼女の話をするのなんて、あの時以来よ?

みんな幼かったわ―
老いなんて考えもしなかったわね・・・

―だってあの頃の私達は、
それを考えることが何より恐ろしかったんですもの―・・・


でも彼女は―
彼女は、何も怖れなかった・・・



彼女は自らの容姿に、人一倍のコンプレックスを抱いていたわ。
【丸い顔、小さな瞳、太い足、私のすべてが私は嫌いよ】
―彼女は自分の事を話すとき、いつもこう言っていたのよ。

恋をしていたの。
毎日毎日、私に話すのは彼のことばかりだったけれど・・・

本当に、楽しそうだった。


でも―
いつだったかしら。

彼に許婚ができたの。
同い年で―それも学校1美しいって言われてた娘よ。

彼女の落胆ぶりは、見ていられなかった。

もうその頃から、狂っていたのかもしれないわ―・・・


そうして秋が過ぎて、その年の冬。
クリスマスの次の日だった。

彼女は死んだわ。


顔は硫酸でどろどろに融け落ちていて・・・
身体には殴られた後がいくつもあった。

なのに―


―彼女が抵抗した痕だけは、ひとつも見つからなかった。



前の日。
クリスマスのダンスパーティのとき、
ドレスアップした彼とあの方を見て、彼女は私に言ったわ。


【丸い顔、小さな瞳、太い足、私のすべてが私は嫌いよ。

ねぇ・・・あの方は綺麗ね・・・

本当に美しいわ―・・・】


なんだったのか、今でも私には解らないの。
でも・・・
それが引き金になったってことよね、きっと・・・



彼女を殺したひとは、未だに見つかっていないわ。
悲しいことよ・・・これからずっと、こんなのが続いていくのね・・・



零の抵抗



そういえばあなた、どうして私みたいな年寄り婆さんの所に、
そんなことを聞きに来たの?

え?
死んだおじいちゃんの日記?


・・・あなた、彼と同じ名字なのね。

顔もよく似てるわ―・・・


でも、あなたが背負うものではないことは確かよ。

さ、ほら、
向こうでみんな遊んでるわ。


早く、行っておいで―


自由詩 零の抵抗 Copyright セルフレーム 2009-09-21 23:02:39
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