偽造硬貨との3ヶ月に渡る対話で、今朝気づかされたこと。…そして別れ。
ひとなつ

「私はチープだから、善悪すらも買えやしないよ。」

財布の中から彼女は言った。
紹介しよう、彼女こそが100円の、偽造硬貨だ。

僕はキオスクの前で、カロリーメイトにしようか、
ウィダーインゼリーにしようかと朝食選びに悩んで
いるフリをして、財布の中の彼女と雑談するのがこ
こ3ヵ月くらいの日課だった。

確かに彼女の言う通り

偽造するなら福沢諭吉に限るはずだ

100円の偽造硬貨?

ガキか?

こんなもの、誰も作らないって分かってるから本物
か偽物かなんて疑うまでもない。

こいつは自販機の下敷きになるまで、おそらく永遠
にオリジナルの100円硬貨として、のうのうと…
また誰かの財布の中で戯言をほざくに違いない。

そして、「善悪が買えない」というのも確かにその
通りで、買えるものと言ったらせいぜい板ガムくら
いなものだ…

「お別れだ…」

僕はキオスクのババアに彼女を差し出してロッテ
の板ガムを買った。名残惜しくもない。
「待って…!」
そう言って彼女は僕を引き止めたが、

安心しろ、お前にはいつも5円玉というオトモがつ
いている。それに民主党が税率を引き上げでもすれ
ば、お前の仲間は増える一方さ。



銀紙をめくると、粉吹いた昆布みたいな薄っぺらい
ガムが現れた。口に放り込むと、やはり粉っぽい舌
触り。だが悪くない。

ミントの味に反応してか2、3度噛むだけで舌に滴る唾液

カフェインに反応して少しキリキリする薄い粘膜の胃の内壁

一気に目が覚めて、ひとつだけ気がついたことがある。


僕は今さっき、彼女で小さな悪を買ってしまったのだ。


BLACK★BLACK


その赤い星マークは、心なしかいつもより血なまぐさいソ連っぽさを醸し出していた。


自由詩 偽造硬貨との3ヶ月に渡る対話で、今朝気づかされたこと。…そして別れ。 Copyright ひとなつ 2009-09-21 01:38:13
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